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エクセルやスプレッドシートで自分の帳簿をつけてみよう お金について考えよう10

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第一章 自分で帳簿を付けてもいいの?

 帳簿という言葉には、どこか近寄りがたい響きがある。会社の経理部に置かれている分厚いファイルや、税理士が難しい顔をしながら数字を確認している姿を思い浮かべるかもしれない。借方、貸方、仕訳、勘定科目。少し調べただけでも、知らない言葉が次々と出てくる。そのため「帳簿は専門知識を持った人が付けるものだ」と考えてしまいやすい。

 しかし、帳簿の出発点はもっと単純である。

 自分のお金に何が起きたのかを記録する。それが帳簿の基本である。

 たとえば、ある人がインターネットで小さな商売を始めたとする。商品が三千円で売れ、その商品を宣伝するために五百円を使った。さらに梱包材を二百円で買った。この三つの出来事をノートに書けば、それだけでも帳簿の原型になる。

「商品が売れた 三千円」

「広告を出した 五百円」

「梱包材を買った 二百円」

 難しい計算はまだ必要ない。三千円入ってきて、七百円出ていった。少なくとも、この日の商売では二千三百円が残ったらしい。それだけでも、記録しなかった場合よりずっと多くのことが分かる。

 もちろん、実際の会計ではもっと考えなければならないことがある。売上が発生した日と実際に入金された日が違うこともあるし、一度買ったものを何年か使うこともある。クレジットカードを使えば、買った日とお金が銀行口座から出ていく日もずれる。しかし、最初からそこまで理解していなければ帳簿を付けてはいけないわけではない。

 むしろ、帳簿を付け始めるからこそ、そうした違いに気づく。

 これは料理に少し似ている。料理を始める前に、包丁の種類や火加減の理論、食材の化学反応をすべて勉強する必要はない。まず卵を焼いてみればいい。焦げたら、火が強かったと分かる。うまく焼けたら、そのやり方を覚える。帳簿も同じである。実際に数字を書いてみることで「これはどこに書けばいいのだろう」「このお金は売上なのだろうか」と疑問が生まれる。その疑問を一つずつ調べていくうちに、会計の考え方が少しずつ身についていく。

 だから、自分で帳簿を付けていい。

 むしろ、自分のお金について考えたいなら、一度は自分で付けてみる価値がある。

 帳簿を自分で付ける最大の利点は、節約できることだけではない。自分の仕事や生活の中で、お金がどのように動いているのかが分かることである。

 銀行口座の残高を見ているだけでは、意外と何も分からない。

 たとえば、月の初めに十万円あった銀行口座が、月末には十二万円になっていたとする。二万円増えている。それだけを見ると「今月は二万円儲かった」と思いたくなる。

 しかし、その月に五万円の売上があり、三万円の経費を支払った結果かもしれない。あるいは十万円の売上があり、八万円使った結果かもしれない。どちらも銀行口座は二万円増えるが、商売の中身はかなり違う。

 前者なら、五万円を得るために三万円使っている。後者なら、十万円を得るために八万円使っている。残った金額だけを見ると同じでも、お金を稼ぐ仕組みは同じではない。

 さらに、月末の直前に五万円の経費をクレジットカードで支払っていて、引き落としが翌月ならどうだろう。銀行口座にはまだその五万円が残っている。残高だけを見ていると、自分が思っているよりお金を持っているように感じる可能性がある。

 帳簿を付けると、このような違いが見えるようになる。

 つまり帳簿は、お金を増やす魔法ではない。お金について勘違いしにくくする道具である。

 ここが重要である。

 人間は、自分のお金について思っているほど正確には覚えていない。

 千円や二千円の買い物なら、なんとなく覚えている。しかし、一か月前に何にいくら使ったのかを正確に思い出そうとすると、急に難しくなる。三か月前なら、なおさらである。一年前になると、よほど大きな買い物でもなければ記憶は曖昧になる。

「たぶん、そのくらい使った」

「最近は売上が増えている気がする」

「広告費はそんなにかかっていないと思う」

 商売をしていると、こうした「気がする」が増えていく。

 ところが、エクセルやGoogleスプレッドシートに数字が残っていれば、記憶に頼る必要がない。

 三月の売上は四万円、四月は四万五千円、五月は六万円だった。

 三月の広告費は一万円、四月は一万五千円、五月は三万円だった。

 こうして数字が並ぶと「売上は増えている」という感覚だけでは足りないことが分かる。売上は二万円増えているが、広告費も二万円増えている。では、本当に以前より儲かっているのだろうか。

 ここで初めて考えることができる。

 帳簿の面白さは、記録した瞬間より、あとから見返したときに現れる。

 一件だけの記録は、ただの数字に見える。ところが十件、百件と積み重なると、その数字の集まりから自分の行動が見えてくる。

 何曜日に売上が多いのか。

 毎月何に一番お金を使っているのか。

 売上が増えると、どの経費も一緒に増えるのか。

 去年と今年では何が変わったのか。

 最初は税金のために記録していたはずなのに、いつの間にか自分の商売を観察する資料になっている。

 この意味では、帳簿は健康診断の記録にも似ている。体重を一回量っただけでは、あまり意味はない。ところが毎週測って一年分を並べると、増えているのか、減っているのか、季節によって変わるのかが見えてくる。

 お金も同じである。

 今日いくら使ったかという一回の数字より、その数字が積み重なったときに価値が生まれる。

 そして、ここでエクセルやスプレッドシートが便利になる。

 紙のノートでも帳簿は付けられる。しかし表計算ソフトなら、数字を入力したあとに合計を出したり、月ごとに並べたり、グラフにしたりできる。後から項目を増やすこともできるし、入力を間違えたら直すこともできる。

 最初から完璧な帳簿を作る必要はない。

 たとえば最初は「日付」「内容」「入ったお金」「出たお金」の四つだけでもいい。

 八月一日、本の売上、三千円。

 八月二日、広告費、五百円。

 八月三日、資料として本を購入、千円。

 この程度から始められる。

 続けているうちに「広告費だけ合計したい」と思ったなら、広告費という分類を追加すればいい。「月ごとの利益を知りたい」と思ったなら、月ごとに集計する方法を覚えればいい。必要になったときに帳簿を育てていけばいいのである。

 間違えることを怖がる必要もない。

 帳簿という言葉から、数字を一つでも間違えたら大変なことになるような印象を持つかもしれない。しかし、自分で記録を確認するための表なら、間違いに気づいた時点で直せばいい。

 むしろ大切なのは、最初から一度も間違えないことではなく、後から確認できる形で記録が残っていることである。

 昨日の自分が何を考えてその数字を書いたのか。それが分かれば、修正できる。

 何も記録していなければ、修正することすらできない。

 そう考えると、帳簿を付けるという行為は、単に数字を書くことではない。

 未来の自分に記憶を渡すことである。

 今日の自分は、今日使った五百円を覚えている。しかし半年後の自分は忘れている。その半年後の自分に「この五百円は広告に使った」と伝えるために記録する。

 一年分の帳簿とは、一年前の自分から今日の自分へ届いた手紙のようなものでもある。

 そこには「この月はよく売れた」「この時期は経費が増えた」「ここから売上が伸び始めた」という過去の行動が数字として残っている。

 その数字を見れば、未来について考えることもできる。

 このペースなら来月はいくら残りそうか。この支出を続けても大丈夫か。売上が少し落ちても耐えられるか。

 過去を書いているだけだった帳簿が、いつの間にか未来を考える道具になる。

 帳簿を付ける資格があるかどうかを心配する必要はない。

 必要なのは、今日のお金の動きを一つ記録してみることである。

 エクセルでもいい。Googleスプレッドシートでもいい。立派な表でなくてもいい。

 まず日付を書き、その横に何が起きたかを書き、いくら入って、いくら出たのかを書く。

 帳簿は、その一行から始まる。

 そして一行目を書いた瞬間から、自分のお金は「なんとなく増えたり減ったりするもの」ではなく、観察できるものへ少しずつ変わっていくのである。

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